問いを起点に!部署・世代を超えた対話を生む場づくり勘所
組織を硬直化させる「一方的な情報伝達」の壁
多くの企業において、組織内のコミュニケーションは「必要な情報の伝達」に終始しがちです。特に、世代や部署が異なると、共通の前提や価値観が少なくなり、円滑な対話が生まれにくくなることがあります。この状況は、単に情報共有が滞るだけでなく、以下のような組織課題を引き起こします。
- 新しいアイデアが特定の層からしか生まれず、多様性に欠ける
- 部署間の相互理解が浅く、連携がスムーズに進まない
- 若手社員が意見を言いにくい、ベテラン社員の経験が共有されにくい
- 組織全体の心理的安全性が低下し、挑戦的な発言や行動が抑制される
こうした課題の根源にあるのは、一方的な情報伝達や形式的な報連相に留まり、「相互の理解を深め、共に考え、創造する」といった質の高い対話が不足している点です。では、どのようにすれば、組織内に「対話」が生まれ、活発なコミュニケーションと協働を促進できるのでしょうか。
「問い」が対話と場づくりにもたらす力
質の高い対話を生み出す鍵の一つが「問い」の存在です。単なる事実確認や指示ではなく、相手の思考や感情を引き出し、共に探求するような「良い問い」は、以下のような効果を発揮します。
- 思考の深化と多様な視点の引き出し: 問いは、聞き手に対して「考えること」を促します。「なぜそう思うのか?」「他にどんな可能性があるか?」といった問いは、表面的な情報だけでなく、その背景にある思考や経験を引き出し、多様な視点やアイデアを顕在化させます。
- 心理的安全性の醸成: 問いかけは、相手への関心や尊重を示す行為です。「あなたの意見を聞きたい」というメッセージは、話し手が安心して発言できる土壌を作ります。特に「正解がない」問いや「共に考えたい」という姿勢は、失敗を恐れずに多様な意見を出し合える心理的安全性を高めます。
- 共通理解と共感の深化: 対話を通じて、互いの考え方や価値観に触れることで、表面的な合意だけでなく、深いレベルでの相互理解や共感が生まれます。これにより、部署間の立場や世代間の価値観の違いを乗り越える一助となります。
- 自律的な行動の促進: 問いかけによって自ら考え、気づきを得たメンバーは、与えられた指示をこなすだけでなく、主体的に課題解決や新しい価値創造に取り組むようになります。
このように、「問い」は単なるコミュニケーションスキルではなく、組織内の思考を活性化し、関係性を構築し、心理的安全性を高めるための強力なツールとなります。そして、この「問い」を意図的に活用することで、「対話が生まれる場」をデザインすることが可能になります。
「問い」を起点とした具体的な場づくりのアプローチ
では、「問い」を起点とした対話の場をどのように作ることができるでしょうか。いくつか具体的なアプローチをご紹介します。
1. ワークショップ形式での探求
特定の組織課題やプロジェクトテーマに対し、示唆に富む「問い」を設定し、数人ずつのグループで対話やアイデア発想を行うワークショップ形式です。
- 目的: 特定のテーマに関する深い議論、課題解決、アイデア創出、参加者間の関係構築。
- 具体的な進め方:
- 問いの設定: 解決したい課題や探求したいテーマに基づき、「もし〇〇が完全に自由だとしたら、何を実現したいか?」「△△について、最も気になる未解決の問いは何か?」など、参加者の思考を刺激する問いを設計します。
- 小グループでの対話: 問いを共有し、それぞれの考えや経験を語り合います。全員が平等に話せるよう、発言時間を区切るなどの工夫も有効です。
- 全体共有と深掘り: 各グループでの対話内容を全体で共有し、さらに深掘りしたい問いや気づきについて対話します。
- 導入のポイント: 問いの設計が最も重要です。抽象的すぎると議論が発散し、具体的すぎると自由な発想が阻害されます。また、対話を円滑に進めるファシリテーターの存在が効果を高めます。
- 費用対効果: 外部の専門家を招く場合はコストがかかりますが、社内ファシリテーターを育成し、自社で実施すれば比較的低コストで実施可能です。企画・準備と実施にかかる時間的コストは考慮が必要です。
2. カジュアルな対話の仕掛け
日常的なコミュニケーションの中に、自然な対話と「問い」を取り入れる仕組みです。
- 目的: 部署や世代を超えた偶発的な交流、多様な考えに触れる機会の創出、心理的安全性の高い雰囲気づくり。
- 具体的な進め方:
- 「今日の問い」共有: 社内ポータルやチャットツールで、日替わり・週替わりで簡単な「問い」を提示します(例:「最近読んで面白かった本は?」「仕事以外で今ハマっていることは?」)。それに対する回答や感想を自由に書き込める場を設けます。
- ランダムランチ/コーヒーブレイク+問い: 異なる部署や世代のメンバーをランダムに組み合わせたランチやコーヒーブレイクを設定し、会話のきっかけとなる「問いリスト」(例:「仕事で大切にしている価値観は?」「入社した理由は何ですか?」)を事前に配布しておきます。
- 雑談スペースのテーマ設定: 物理的な休憩スペースやオンラインの雑談ルームに、対話のきっかけとなる「問いボード」や「今日のテーマ」を掲示します。
- 導入のポイント: 参加への強制感は避け、あくまで自発的な参加を促す設計にすることが重要です。問いはライトなものから始め、徐々に仕事に関わるものに広げても良いでしょう。
- 費用対効果: ランダムランチ等で飲食費の補助を検討する場合を除けば、ほとんど費用はかかりません。運用にかかる手間は限定的です。
3. オンラインツールを活用した「問い」の共有と応答
社内SNSやチャットツールの特定のチャンネルを、「問い」とそれに対する応答の場として活用します。
- 目的: 場所や時間にとらわれない非同期での対話促進、幅広い社員からの意見収集、ナレッジや気づきの共有。
- 具体的な進め方:
- テーマ別チャンネル: 特定のテーマ(例:「リモートワークの生産性向上」「新しい福利厚生について」)に関する問いを立て、そのチャンネル内で自由に意見やアイデアを交換します。匿名での投稿機能を活用するのも一つの方法です。
- 週次の振り返り投稿: 金曜日などに「今週の最大の学びは?」「来週試したいことは?」といった問いを投げかけ、各自が短く投稿する文化を根付かせます。
- アイデアボックス+問い: 新しいアイデアを投稿するだけでなく、「このアイデアを実現するために、どんな情報や協力者が必要ですか?」といった問いをセットで投稿する形式にします。
- 導入のポイント: 問いを投げかける担当者を決めたり、活発な投稿を促すための工夫(例:役員やリーダーからの投稿、優れた投稿へのリアクション)が必要です。また、投稿された内容が一方的に流れるだけでなく、何らかの形で活用・フィードバックされる仕組みも重要です。
- 費用対効果: 既存のツールを活用するため、追加費用は基本的にかかりません。運用体制の構築と、社員への利用促進が主なコストとなります。
導入・運用のための勘所
「問い」を起点とした対話の場づくりを成功させるためには、以下の点に留意することが重要です。
- 目的を明確にする: 何のためにこの場を作るのか(例:アイデア創出、部署間連携強化、世代間相互理解)を参加者と共有することが、対話の方向性を定める上で不可欠です。
- 「良い問い」を追求する: 参加者の当事者意識を引き出し、多様な視点からの発言を促す問いは何かを深く検討します。オープンクエスチョン(はい/いいえで答えられない問い)が基本です。
- 安全な場をデザインする: どのような意見や問いも尊重される、批判や否定のない雰囲気づくりが最も重要です。ファシリテーターの役割や、対話のルールを設定することも有効です。
- 成果を次に繋げる: 対話の中から生まれたアイデア、気づき、課題等を記録し、共有し、その後のアクションに繋げる仕組みが必要です。対話が単なるおしゃべりで終わらないようにすることで、参加者のモチベーション維持にも繋がります。
- 小さく始めて、継続的に改善する: 最初から大規模な取り組みを目指すのではなく、特定の部署やテーマで小さく試行し、フィードバックを得ながら改善していくことが現実的です。
まとめ:問いから生まれる組織の活力
組織の硬直化やコミュニケーション不足は、情報伝達は行われていても、「互いに問いかけ、深く聴き合い、共に考える」という対話が不足しているサインかもしれません。「問い」を意図的に組織内の様々なコミュニケーションに取り入れ、対話が自然に生まれる「場」をデザインすることで、世代や部署を超えた多様な視点やアイデアが引き出され、組織の活性化や新しい価値創造に繋がります。
すぐに試せるカジュアルな問いかけから、テーマを設定したワークショップまで、自社の課題や状況に合わせて「問い」を起点とした場づくりを検討されてみてはいかがでしょうか。小さな一歩が、組織のコミュニケーションと風土を大きく変える可能性を秘めています。