部署・世代を超えた連携を生むプロジェクト共有会設計の勘所
はじめに:形式的な報告会が組織の壁を作る?
日々の業務の中で、プロジェクトの進捗共有会や成果報告会は多くの企業で実施されています。しかし、その多くが「誰かが一方的に話し、他の参加者は聞いているだけ」といった形式的な場になっていないでしょうか。決められたフォーマットでの報告に終始し、活発な質疑応答や意見交換が生まれず、参加者は自身の業務とは直接関係ないと感じて受け身になってしまう。このような状況は、部署間の情報共有を滞らせ、世代を超えた相互理解の機会を失わせ、結果として組織内の壁を厚くしてしまう原因となり得ます。
特に、組織が大きくなるにつれて部署間の連携は難しくなり、若手とベテランの間では情報の受け止め方や関心事が異なるため、従来の報告形式では互いの業務への理解や関心を深めることが困難になります。また、こうした一方通行の場からは、新しいアイデアや異なる視点からの気づきが生まれにくいのが実情です。
本稿では、「新しいつながりLab」のコンセプトに基づき、プロジェクト共有会や成果報告会を、単なる「報告の場」から「部署・世代を超えた対話と連携を生む場」へと変革するための設計と運用の「勘所」をご紹介します。具体的なアプローチを知ることで、読者の皆様が抱える組織のコミュニケーション課題解決の一助となることを目指します。
なぜ「対話と連携を生む場」への変革が必要か?
従来の報告会が抱える課題は多岐にわたります。時間の浪費、参加者のエンゲージメント低下、形式主義への陥りやすさなどが挙げられます。これを「対話と連携を生む場」へと変革することで、以下のような多角的な効果が期待できます。
- 相互理解の促進: 異なる部署やプロジェクトの状況、背景にある課題や苦労が共有されることで、互いの業務への理解と尊重が深まります。これは世代間の価値観のギャップを埋める上でも有効です。
- ナレッジの共有と横展開: 個々のプロジェクトで得られた知見や成功・失敗事例が活発な対話の中で共有されることで、組織全体のナレッジベースが豊かになり、他のプロジェクトや部署での応用が可能になります。
- 課題の早期発見と解決促進: 一方的な報告では見落とされがちな潜在的な課題も、多様な視点からの質疑応答や意見交換を通じて顕在化しやすくなります。これにより、早期の対応や部署横断での解決策検討が可能になります。
- 新しいアイデアの創出: 異なる専門性や経験を持つ人々が自由に意見を交わすことで、予期せぬ化学反応が生まれ、新しいアイデアやこれまでにない連携の可能性が拓かれます。
- 組織エンゲージメントの向上: 自身の業務や成果が組織全体に共有され、評価される場があることは、社員のモチベーション向上につながります。また、組織の一員としての貢献実感や一体感も醸成されます。
これらの効果は、人事・組織開発担当者が目指す「コミュニケーション不足の解消」「部署間の壁の撤廃」「新しいアイデアが出やすい風土づくり」に直結します。
「対話と連携を生む報告会」の設計における勘所
では、具体的にどのようにして報告会を対話と連携の場へと変革していくのでしょうか。その設計における重要なポイントは以下の通りです。
1. 目的の再定義と共有
最も根本的な勘所は、会議の目的を「単なる報告」から「対話と連携を通じて組織全体の知を高め、新しい価値を生み出すこと」へと明確に再定義し、参加者全員に共有することです。「何のために集まるのか」が変われば、参加者の意識と行動も変わります。
2. アジェンダと進行の工夫
一方的な報告時間を極力短縮し、質疑応答、フリートーク、意見交換、グループワークといった参加型の時間を大幅に増やします。
- 報告形式の変更: 事前資料配布を必須とし、当日は資料の読み上げではなく、概要説明と特に議論したいポイントに絞ったショートプレゼン形式にする。
- 対話時間の確保: 発表時間と同じかそれ以上の時間を質疑応答や自由討論に割り当てる。テーマによっては、関連する複数のプロジェクトをまとめて報告・議論する時間を設ける。
- ワークショップ要素の導入: 特定の課題やテーマについて、部署や世代を混ぜたグループでディスカッションやブレインストーミングを行う時間を設ける。
3. 参加者構成の多様性
プロジェクトメンバーだけでなく、関連部署の担当者、経営層、若手社員、ベテラン社員など、意図的に多様なバックグラウンドを持つ参加者を選定します。異なる視点や経験を持つ人が加わることで、議論が深まり、予期せぬ発見が生まれます。
4. 心理的安全性の高い場づくり
参加者が役職や世代に関係なく、自由に意見や疑問を発言できる雰囲気づくりが不可欠です。
- 進行役(ファシリテーター)が、批判をしない、異なる意見も尊重するといったグランドルールを明確に伝える。
- 発言しづらい参加者にも問いかけたり、小さな意見も拾い上げたりする配慮を行う。
- 失敗事例や課題についてもオープンに話し合える文化を醸成する。
5. フォーマットと手法の柔軟な選択
会議の目的や参加者、内容に応じて、最適なフォーマットと手法を選択します。
- 発表形式: ライトニングトーク、ポスターセッション、デモ展示など。
- 対話形式: オープンスペーステクノロジー、ワールドカフェ、グラフィックレコーディング活用など、議論を深め可視化する手法を取り入れる。
- オンライン/オフライン/ハイブリッド: ツールの活用(共有ホワイトボード、チャット、リアクション機能など)により、オンラインでも対話を促進する工夫が可能です。
「対話と連携を生む報告会」の運用における勘所
設計した場を実際に機能させるためには、運用面でもいくつかの重要なポイントがあります。
1. 進行役(ファシリテーター)の役割
ファシリテーターは、単に時間を管理するだけでなく、参加者全員が対等に発言できる雰囲気を作り、議論が目的から逸れないように誘導し、多様な意見を引き出す重要な役割を担います。問いかけのスキルや傾聴の姿勢が求められます。社内でファシリテーション研修を実施することも有効です。
2. 参加者への事前と事後の働きかけ
- 事前: 報告資料の事前共有、特に議論したいポイントの提示、参加者への期待(例:〇〇の視点からコメントをお願いします)などを伝えることで、参加者の準備と当日の積極性を促します。
- 事後: 議事録の迅速な共有(議論のポイント、決定事項、ネクストアクションを明確に)、得られた知見やアイデアの展開方法の検討、次回の開催に向けたフィードバック収集などを継続的に行います。
3. 小さく始めて改善を繰り返す
最初から完璧を目指す必要はありません。特定の部署やプロジェクト単位で小さく試行し、参加者からのフィードバックを得ながら改善を繰り返していくのが現実的です。成功事例を社内に共有し、徐々に展開していくアプローチが効果的です。
事例に学ぶ:大手企業での実践
大手企業A社では、それまで事業部ごとに個別に行われていた週次のプロジェクト進捗報告会を、月一度、関連性の高い事業部やコーポレート部門の担当者も交えた合同報告・対話会へと変更しました。報告形式は5分間のショートプレゼンと、それに続く20分間のオープンディスカッション(質疑応答と自由意見交換)が基本です。
導入当初は戸惑いの声もありましたが、目的を「事業部間の連携強化と新しい協業アイデアの探索」と明確に伝え、社長を含む経営層も積極的に参加し、若手社員の発言を促す姿勢を見せたことで、次第に活発な対話が生まれるようになりました。結果として、部署間の情報格差が減少し、複数の新規共同プロジェクトがこの場で発案・具体化されるといった成果が出ています。特別なツール導入や大きなコストをかけることなく、既存の会議体の「設計」を変えることで、組織全体のコミュニケーションと連携を活性化させた事例と言えます。
費用対効果に関する示唆
報告会を対話の場に変える取り組みは、必ずしも高額なツール導入や大規模なイベント開催を必要としません。多くの場合は、既存の会議体の時間配分、進行方法、参加者構成、ファシリテーションスキルといった「設計と運用」の見直しで実現可能です。
人的コストとしては、ファシリテーター育成や資料準備方法の見直しに伴う一時的な負荷は発生し得ますが、会議が活性化し、有益な情報共有やアイデア創出が促されることで、結果として意思決定の迅速化、課題解決の効率化、新しいビジネス機会の創出といった大きな成果につながります。これは、形式的な報告会にかかっていた時間や労力が、より生産的で価値創造につながる活動へと転換されたと捉えることができます。つまり、既存リソースの活用と会議の質の向上による、高い費用対効果が期待できる施策と言えます。
まとめ:報告会を変革し、組織のつながりを強くする
プロジェクト共有会や成果報告会は、適切に設計・運用されることで、単なる情報伝達の場を超え、部署・世代を超えた対話と連携を生み出す強力なツールとなり得ます。
本稿でご紹介した「目的の再定義」「アジェンダと進行の工夫」「多様な参加者構成」「心理的安全性の確保」「フォーマットの柔軟な選択」といった設計の勘所と、「進行役の役割」「事前事後の働きかけ」「スモールスタートでの改善」といった運用の勘所を、ぜひ自社の状況に合わせて検討してみてください。
まず、現状の報告会がどのような課題を抱えているのかを分析することから始めましょう。そして、特定の会議で小さく対話型の要素を試行導入し、効果を見ながら改善を繰り返していくことが成功への鍵となります。形式的な報告会を、組織全体のつながりを強くし、新しい価値を生み出す「生きた場」へと変革していくことは、人事・組織開発担当者の皆様にとって、やりがいのある重要な挑戦となるはずです。この挑戦が、貴社のコミュニケーション課題解決と組織活性化につながることを願っています。