目標設定・評価面談を対話の場に:世代・部署を超えた納得と成長を促す勘所
目標設定・評価面談、形式的な手続きになっていませんか?
大企業において、目標設定や評価のプロセスは組織運営の根幹をなす重要な機能です。しかし、このプロセスが単なる事務手続きに終始し、社員の納得感が得られにくい、成長実感につながりにくい、といった課題を感じている人事・組織開発担当者は少なくありません。特に、多様な働き方や価値観を持つ若手世代と、これまでの慣習に慣れたベテラン世代との間では、目標への認識のずれや評価基準に対する理解の違いから、コミュニケーション不足が生じやすい傾向があります。
また、部署間の連携が不可欠な現代において、個人の目標が組織全体の目標や他部署の目標とどのように繋がるのかが見えにくいことも、部署間の壁を生む一因となります。形式的な目標設定・評価面談では、このような組織全体の連携や新しいアイデアの創出につながる対話が生まれにくいのが現状です。
「新しいつながりLab」では、このような課題を解決する糸口として、目標設定・評価面談を「単なる手続き」から「価値ある対話の場」へと変革することを提案します。本記事では、目標設定・評価面談の対話化がなぜ重要なのか、具体的なアプローチ、そして導入・運用のポイントについて、人事・組織開発担当者の視点からご紹介します。
なぜ目標設定・評価面談の対話化が重要なのか
目標設定・評価面談を対話中心のアプローチにすることで、組織は以下のような多層的なメリットを享受できます。
1. 世代・価値観の多様化への対応と納得感の向上
若手社員は成長機会やキャリアの自律性を重視する傾向があり、ベテラン社員はこれまでの経験や貢献が正当に評価されることを期待するかもしれません。対話を通じて、上司と部下が互いの期待や価値観を共有し、目標設定の意図や評価基準について深く理解することで、世代間の認識のずれを解消し、目標への納得感や評価に対する腹落ち感を高めることができます。
2. 社員の成長促進とエンゲージメント向上
一方的な目標伝達や結果報告に終わるのではなく、目標達成に向けたプロセスや課題、必要なサポートについて対話することで、社員は自身の成長に必要な要素を明確にできます。また、上司からの建設的なフィードバックや励ましは、社員のモチベーションを高め、業務への主体性やエンゲージメントの向上に繋がります。目標設定・評価のプロセスが、社員が自身のキャリアと向き合い、成長を実感できるポジティブな機会となります。
3. 部署間の連携強化と新しいアイデアの創出
個人の目標が、所属部署や組織全体の目標、さらには他部署の目標とどのように関連しているのかを対話の中で確認することで、社員は自身の役割の重要性や他部署との連携の必要性をより深く理解できます。これにより、部署間の目標の整合性が高まり、横断的な協力体制が促進されます。また、対話の中で業務上の課題や改善点が自由に話し合われることで、新しいアイデアや効率化のヒントが生まれる可能性も高まります。
目標設定・評価面談を「対話の場」にする具体的なアプローチ
目標設定・評価面談を対話型の運用に変えるためには、単に面談時間を長くするだけでなく、いくつかの具体的な工夫が必要です。
アプローチ1:面談の「質」を高めるための仕組みづくり
- 面談時間の確保と事前準備の推奨: 形式的な報告会にならないよう、質疑応答や対話のための十分な時間を確保することを奨励します。また、部下だけでなく上司にも事前準備(部下の目標・成果の振り返り、フィードバック内容の検討など)を促すためのガイドラインやツールを提供します。
- 評価シートの見直し: 定量的な成果だけでなく、目標達成に向けたプロセス、工夫した点、周囲との連携、困難への立ち向かい方など、定性的な要素や行動特性についても記述・対話できる項目を追加します。
- 対話記録の奨励: 面談での話し合いの内容(合意事項、ネクストアクション、認識のずれなど)を記録し、次回面談時や日々のコミュニケーションで活用することを推奨します。人事システムに記録機能があれば、より効果的です。
アプローチ2:管理職の「対話力」向上に向けた支援
- 対話スキル研修の実施: 目標設定・評価面談の目的を再確認するとともに、部下の本音を引き出す傾聴スキル、成長を促す効果的な問いかけ、建設的なフィードバックの方法など、管理職向けの対話スキル研修を体系的に実施します。特に、世代や背景が異なる相手とのコミュニケーションに焦点を当てた内容が有効です。
- 事例共有とロールプレイング: 面談での成功事例や難しいケースへの対応方法を共有する場を設けたり、ロールプレイングを通じて実践的なスキルを磨く機会を提供します。
- 人事担当者による伴走支援: 必要に応じて、人事担当者が管理職からの面談に関する相談に応じたり、難易度の高いケースの対応についてアドバイスを行うなど、個別のサポートを提供します。
アプローチ3:ツールや制度を活用した対話の促進
- 目標管理・評価システムの活用: 目標の進捗状況が可視化され、いつでもコメントやフィードバックができるシステムは、継続的な対話を促進します。目標と成果だけでなく、日々の業務における気づきや挑戦も記録・共有できる機能があれば、より豊かな対話の材料となります。
- 360度評価やピアボーナスの導入: 上司以外の同僚や部下からの多角的なフィードバックは、評価の納得感を高めるとともに、面談での対話を深めるきっかけとなります。ピアボーナスは、日々の小さな貢献や連携を見える化し、感謝とともにフィードバックを伝える文化を醸成します。
事例に学ぶ:対話による目標設定・評価の変革
ここでは、対話を中心とした目標設定・評価プロセスを導入し、成果を上げている企業事例のエッセンスをご紹介します。
事例1:大手メーカーX社
- 課題: 従来の目標設定・評価はプロセスが複雑で時間がかかり、特に若手社員の間で目標へのオーナーシップや評価への納得感が低いことが課題でした。
- 施策: 目標設定シートをシンプル化し、目標と紐づく「期待される行動」を言語化するセクションを新設。管理職向けに「部下の成長を促す対話」に特化した研修を繰り返し実施しました。面談では、定量目標だけでなく、この「期待される行動」の達成度合いとそのプロセスについて深掘りする対話を重視しました。
- 成果: 社員サーベイにおいて、目標の「腹落ち度」と評価への「納得度」が向上。特に若手社員の間で目標達成に向けた自律的な行動が増加し、エンゲージメントスコアにも改善が見られました。研修を受けた管理職からは、「部下との関係性が良くなった」「部下の内発的動機を引き出せるようになった」といった声が聞かれました。
事例2:成長IT企業Y社
- 課題: 事業の変化が速く、期初に設定した目標が陳腐化しやすい。部署間の連携が必須だが、目標設定の段階で十分に連携が図られていないケースが見られました。
- 施策: 四半期ごとの短いサイクルでの目標設定・レビューを実施。目標管理システムを導入し、個人の目標をチームや部署の目標と紐付け、関連する他部署の目標も参照できる仕組みを構築しました。システム上で目標に対するコメントやフィードバックを常時行えるようにし、日常的な対話を推奨しました。評価面談では、期初目標との乖離だけでなく、期中に発生した予期せぬ課題への対応や、他部署との連携を通じて得られた成果や学びについても重点的に対話しました。
- 成果: 組織全体の目標達成に向けたスピード感が向上。部署間の目標の整合性が高まり、横断プロジェクトにおける連携がスムーズになりました。システム上での活発なコメント交換を通じて、非公式なナレッジシェアや課題解決が進み、部署間の壁が低くなる効果も現れました。ツール導入コストは発生しましたが、事業環境の変化への適応力向上や連携強化による機会損失の削減といった側面で、費用対効果を感じています。
これらの事例からわかるように、目標設定・評価プロセスを対話中心に変えることは、社員個人の成長と納得感の向上だけでなく、組織全体のエンゲージメントや部署間連携の強化にも寄与します。
導入・運用のポイント:着実に「対話の場」を育むために
目標設定・評価面談の対話化は、一度に全てを変えようとするのではなく、段階的に進めることが成功の鍵となります。
- トップ及び人事部門の強いコミットメント: 本取り組みが単なる新しい手続きではなく、組織文化を変えるための重要なステップであることを、経営層や人事部門が明確にメッセージを出し続けることが不可欠です。
- 管理職への丁寧な説明と支援: 本取り組みの目的とメリット、期待される役割について、管理職に丁寧に説明し、理解と協力を得ることが重要です。研修や個別相談、事例共有など、継続的な支援体制を構築します。
- スモールスタートと効果測定: 全社一斉導入ではなく、一部の部署や対象者を限定して先行導入し、そこで得られた知見や課題を全体展開に活かします。社員サーベイやエンゲージメント測定などを通じて効果を測定し、改善を継続します。
- 社員への丁寧な説明: 部下である社員に対しても、本取り組みの目的(成長支援、納得感向上など)を丁寧に説明し、安心して面談に臨めるように配慮します。
まとめ:対話による目標設定・評価は組織を強くする「場づくり」
目標設定・評価面談を対話の場に変えることは、単に人事評価の精度を高めるだけでなく、世代や背景を超えた社員一人ひとりの納得と成長を促し、部署間の連携を強化し、結果として組織全体のエンゲージメントとパフォーマンスを高めるための重要な「場づくり」です。
変化の激しい現代において、形式的なプロセスではなく、人としての対話を通じて互いを理解し、共に目標に向かう姿勢こそが、強い組織を育む土壌となります。ご紹介したアプローチや事例を参考に、ぜひ貴社における目標設定・評価プロセスの「対話化」をご検討ください。小さな一歩からでも、確実に組織にポジティブな変化をもたらすことができるはずです。
「新しいつながりLab」では、組織のコミュニケーションに関する様々な情報を提供しています。他の記事もぜひご参照ください。