社内副業・兼業制度導入のポイントと事例
社内副業・兼業制度が組織の壁を越える可能性
多くの企業で、部署間の連携不足や世代間のコミュニケーションギャップが、新しいアイデアの創出や組織全体の活性化を妨げる課題となっています。特に大企業においては、組織が細分化されるほど、個々の社員が持つ多様なスキルや知見が部署内に閉じてしまいがちです。このような状況を打破し、組織内に新たな風を吹き込む施策として、「社内副業・兼業制度」が注目を集めています。
本稿では、社内副業・兼業制度がどのように組織内のコミュニケーションや連携を促進し、新しい「場」や「つながり」を生み出すのか、その導入における重要なポイントと具体的な事例をご紹介します。人事・組織開発担当の皆様が、自社の課題解決に向けたヒントを見つける一助となれば幸いです。
社内副業・兼業制度がもたらす組織への効果
社内副業・兼業制度とは、社員が所属部署の主業務を持ちながら、社内の別の部署やプロジェクトで業務を行うことを認める制度です。これにより、以下のような組織への効果が期待できます。
- 部署・世代を超えた新しいつながりの構築: 普段接点のない社員同士が共通のプロジェクトを通じて協力することで、新たな人間関係やネットワークが生まれます。これは、従来の縦割り組織の壁を低くし、組織全体の心理的な距離感を縮めることに繋がります。
- 多様なスキルや知見の融合によるアイデア創出: 異なる部署や業務経験を持つ社員が集まることで、それぞれの専門性や視点が掛け合わされ、単一部署では生まれ得なかった革新的なアイデアや解決策が生まれやすくなります。
- 社員の自律的なキャリア形成とモチベーション向上: 自身のスキルや興味を活かして多様な業務に挑戦できる機会は、社員のエンゲージメントや学習意欲を高めます。これは、特に若手や特定のスキルを持つ社員の定着にも寄与し得ます。
- 組織全体の柔軟性と変化への対応力向上: 必要な時に必要なスキルを持つ人材が、部署を超えてプロジェクトに参画できる仕組みは、組織全体の機動性を高め、変化の速いビジネス環境への適応力を強化します。
制度導入を検討する際のポイント
社内副業・兼業制度は、単に制度を導入すれば効果が出るものではありません。制度設計にあたっては、自社の組織文化や目的に合わせた慎重な検討が必要です。主な検討ポイントを以下に挙げます。
- 制度導入の明確な目的設定: 何のためにこの制度を導入するのか(例: 新規事業アイデア創出、既存業務の課題解決、人材育成、部署間連携強化など)を明確にし、関係者間で共有することが成功の鍵となります。目的に応じて、制度の設計(対象者、期間、募集方法など)が変わってきます。
- 対象者と参加条件: 全社員を対象とするのか、特定のスキルや役職の社員に限定するのか。また、参加にあたって上長承認を必須とするか、申請制とするかなど、公平性と実効性のバランスを考慮する必要があります。
- 本業とのバランスと時間の管理: 社内副業・兼業に費やす時間のガイドライン設定や、本業に支障が出ないような仕組みづくりは非常に重要です。時間管理ツールの活用や、本業の上長と副業先の上長間の連携などが考えられます。
- 評価制度への反映: 社内副業・兼業での貢献を、本業の評価にどのように反映させるか、あるいは別の評価軸を設けるかなどを検討する必要があります。社員のモチベーション維持に直結する部分です。
- プロジェクトと人材のマッチング方法: どのようなプロジェクトに、どのようなスキルを持つ人材が必要なのかを可視化し、希望者とのマッチングを円滑に行うための仕組み(社内ポータル、専用プラットフォームなど)があると効果的です。
- 推進体制とルールの明確化: 制度を推進する担当部署を定め、社内副業・兼業に関するルール(機密保持、知財の扱い、労働時間管理など)を明確に定めて社員に周知徹底することが不可欠です。
- 費用対効果の検討: 制度の設計・運用にかかるコスト(システム導入費、管理工数、研修費用など)と、期待される効果(生産性向上、イノベーション創出、エンゲージメント向上による離職率低下など)を比較検討します。最初は小規模なトライアルから開始し、効果を検証しながら拡大していくというアプローチも有効です。
社内副業・兼業制度の成功事例
実際に社内副業・兼業制度を導入し、成果を上げている企業の事例は、自社での検討において大変参考になります。(ここでは特定の企業名を挙げることは控えますが、一般的に見られる効果的なアプローチをご紹介します。)
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事例1:新規事業・プロジェクト創出型
- 目的: 部署横断での新しいアイデア創出、社員の起業家精神育成。
- 施策: 社員から新規事業や社内改善プロジェクトのアイデアを公募。選ばれたアイデアには公募で集まった他の部署の社員が副業として参加。専門部署がメンターとして支援。
- 成果: 複数の新規事業アイデアや社内業務改善案が生まれ、一部は実際の事業・施策として実行に移された。参加社員の部署間ネットワークが広がり、異分野の知見が融合する風土が醸成された。
- ポイント: 経営層の強いコミットメントと、アイデア創出・実行を支援する仕組み(メンター制度、リソース提供)が重要。
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事例2:スキルシェア・課題解決型
- 目的: 既存業務における部署横断でのスキルシェア、専門人材の有効活用、組織全体の業務効率向上。
- 施策: 社内ポータル等で、特定のスキル(プログラミング、デザイン、語学、特定の市場知識など)を持つ社員が「提供できること」を登録。一方、各部署の担当者が「手伝ってほしいこと」を募集。マッチングが成立したら、業務時間の一定割合を上限としてスポットで副業として従事。
- 成果: 部署内で不足していた専門知識やリソースを補い、業務のボトルネックを解消。特定の社員に業務負荷が集中するのを防いだ。社員は自身のスキルを活かせる機会を得て、貢献実感が高まった。
- ポイント: スキルやニーズの可視化、マッチングの仕組み化、本業との時間調整ルールが機能のカギ。短期間・小規模な業務から始めやすい。
これらの事例からわかるように、社内副業・兼業制度は、導入の目的や設計次第で多様な効果を発揮します。自社の抱える具体的な課題に対し、どのような制度が最も効果的かを見極めることが重要です。
まとめ:新しい「つながり」が組織を変える
社内副業・兼業制度は、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出しながら、部署や世代といった既存の枠組みを超えた新しい「つながり」と「場」を生み出す強力なツールとなり得ます。これにより、組織内のコミュニケーションが活性化し、硬直化した部署間の壁が低くなり、新しいアイデアが生まれやすい風土へと変わっていく可能性があります。
もちろん、制度設計や運用には考慮すべき点が多くありますが、目的を明確にし、段階的に導入・検証していくことで、その効果を最大限に引き出すことができるでしょう。
ぜひ本稿を参考に、貴社におけるコミュニケーション活性化や組織風土改革に向けた新たな施策の一つとして、社内副業・兼業制度の導入を検討されてみてはいかがでしょうか。具体的な制度設計や導入事例について、さらに情報収集を進めることが、次なる一歩に繋がるはずです。