部署・世代間の「つなぎ役」!社内アンバサダー制度導入の勘所
なぜ今、社内アンバサダー制度が注目されるのか
多くの企業で、世代間ギャップによる価値観の衝突、部署間のサイロ化、そして新しいアイデアが生まれにくい硬直した組織風土といった課題が顕在化しています。これらの課題に対し、経営層や人事部主導の一方的な施策だけでは限界があり、現場からの自律的なコミュニケーション活性化が不可欠だと認識され始めています。
そこで近年注目されているのが、「社内アンバサダー制度」です。これは、特定のテーマや部署、あるいは世代間の「つなぎ役」となる社員を任命し、彼らの自発的な活動を通じて組織内のコミュニケーションを促進しようという取り組みです。
本稿では、この社内アンバサダー制度が、いかにして世代や部署の壁を越えた「新しいつながり」を生み出すのか、その具体的な導入・運用ポイントと事例についてご紹介いたします。
社内アンバサダー制度とは?その役割と目的
社内アンバサダー制度とは、社員の中から特定のミッションを持った「アンバサダー(大使)」を選出し、彼らがそのミッションに関連する情報発信、イベント企画、意見収集、部署間連携の促進などを行う制度です。
アンバサダーに求められる役割は、制度設計によって多岐にわたりますが、主な目的として以下のような点が挙げられます。
- 情報伝達・浸透: 経営方針、新しい制度、企業文化などを現場に分かりやすく伝え、浸透を促進する。
- 現場の意見収集: 現場のリアルな声や課題を吸い上げ、経営層や人事部にフィードバックする。
- 部署間連携の促進: 異なる部署間の社員同士が交流するきっかけを作り、共通の理解や協力を促す。
- 世代間交流の促進: 若手とベテラン社員が互いの価値観や働き方を理解し、円滑なコミュニケーションを図れる場を提供する。
- 企業文化・バリューの体現: 会社の目指す姿や大切にしている価値観を自ら体現し、周囲に良い影響を与える。
- 特定テーマの推進: 例:DE&I、健康経営、サステナビリティなど、特定の社内プロジェクトやテーマに関する意識向上と行動変容を促す。
これらの役割を果たすアンバサダーは、人事部や特定の部署に限定されず、様々な部署・世代の社員が担うことが重要です。多様なバックグラウンドを持つ社員がアンバサダーとなることで、より多角的な視点からのコミュニケーション活性化が期待できます。
アンバサダー制度が解決する具体的な課題
社内アンバサダー制度は、冒頭で触れた組織の課題に対し、以下のような具体的なアプローチを提供します。
世代間ギャップの解消
- 若手アンバサダーの活躍: 若手社員がアンバサダーとして、デジタルツールの活用法や最新のトレンドに関する勉強会を企画したり、若手社員が持つ価値観や働き方への考えを経営層に伝える橋渡し役を担ったりすることで、ベテラン社員との相互理解が進みます。
- ベテランアンバサダーの知見共有: ベテラン社員が持つ豊富な経験や暗黙知を共有するカジュアルな交流会を企画するなど、形式ばらない形で世代を超えた学びの場を提供します。
部署間の壁の打破
- 部署横断アンバサダー: 異なる部署の社員が連携してアンバサダー活動を行うことで、部署間の交流や情報交換が自然に生まれます。
- 課題発掘・連携促進: アンバサダーが現場の困りごとや部署間の連携不足といった課題を発見し、部署横断のプロジェクトチーム組成を促すなど、ボトムアップでの連携強化に貢献します。
- 業務紹介・交流イベント: 他部署の業務内容や専門性を紹介するイベントをアンバサダーが企画・運営することで、社員間の相互理解を深め、新たな協業の可能性を生み出します。
組織風土の改善・活性化
- ポジティブな情報発信: アンバサダーが社内の良い事例や社員の活躍を発信することで、組織全体の士気を高め、心理的安全性を醸成します。
- ボトムアップの機運醸成: 現場社員が主体的に組織に関わる機会が増えることで、「自分たちの会社をより良くしたい」という意識が高まり、風通しの良い風土が生まれます。
- 新しいアイデアの創出: 多様なバックグラウンドを持つアンバサダー同士、あるいはアンバサダーが繋いだ社員間の交流から、従来の枠にとらわれない新しいアイデアが生まれやすくなります。
社内アンバサダー制度導入・運用時の勘所
制度を効果的に機能させるためには、計画的な導入と丁寧な運用が不可欠です。以下のポイントを押さえることが成功の鍵となります。
1. 制度の目的を明確にする
「何のためにアンバサダー制度を導入するのか」という根本的な目的を明確にし、関係者間で共有することが最も重要です。世代間交流促進、部署間連携強化、企業文化浸透など、具体的な課題解決に焦点を当てましょう。目的が曖昧だと、アンバサダーの活動もぼやけてしまい、形骸化のリスクが高まります。
2. アンバサダーの選定と育成
誰をアンバサダーにするか、どのように選ぶか(立候補、推薦、公募など)は、制度の目的に合わせて慎重に検討します。選ばれたアンバサダーに対しては、期待される役割や活動範囲、情報発信のルールなどを丁寧に説明し、必要なスキル(コミュニケーション、ファシリテーション、情報収集・発信など)に関する研修やサポートを提供することが重要です。
3. 役割と活動範囲を明確にする
アンバサダーの役割と活動範囲を具体的に定義します。何を「やること」とし、何を「やらないこと」とするのかを明確にすることで、アンバサダー自身の迷いをなくし、過度な負担を防ぎます。また、本業とのバランスを考慮し、活動時間の目安や、活動に必要なサポート体制(費用、場所、ツールなど)も取り決めます。
4. 経営層・管理職の理解とサポートを得る
アンバサダー制度は、現場社員の自律的な活動が中心となりますが、経営層や管理職の理解と継続的なサポートなしには成功しません。制度の意義を丁寧に説明し、アンバサダーの活動に対してポジティブな関心を示し、必要に応じて権限委譲や意思決定の迅速化を行うなど、活動を後押しする姿勢が不可欠です。管理職に対しては、部下であるアンバサダーの活動時間を考慮した業務調整への理解を求めます。
5. 活動の評価と報酬・承認の仕組み
アンバサダーの活動を適切に評価し、貢献に対する報酬や承認の仕組みを設けることで、モチベーションを維持し、活動を継続させることができます。金銭的な報酬だけでなく、社内表彰、昇進・昇格への考慮、研修機会の提供、経営層との交流機会など、非金銭的なインセンティブも有効です。活動報告会などを実施し、全社的に活動内容と成果を共有することも重要です。
6. 情報共有と巻き込みの仕組み
アンバサダーの活動内容や成果を、全社員に分かりやすく共有する仕組みを作ります。社内報、イントラネット、社内SNS、全社集会などを活用し、アンバサダーの取り組みを「見える化」することで、他の社員の関心を引き、制度への理解を深め、さらなる参加や連携を促します。
費用対効果に関する示唆
社内アンバサダー制度の導入・運用にかかるコストは、主に人件費(アンバサダーの活動時間)、研修費用、活動費(イベント開催費、ツール費用など)、運営事務コストです。これらのコストに対し、コミュニケーション活性化による生産性向上、離職率低下、エンゲージメント向上、イノベーション創出、企業ブランディング向上といった効果が期待できます。効果を測定するためには、導入前後での社内サーベイやエンゲージメントスコアの変化、部署間連携度合いを示す指標(例:部署横断プロジェクト数、情報共有頻度)などを追跡すると良いでしょう。特に、現場からの自律的な活動であるため、トップダウン施策に比べて比較的低コストで大きな波及効果を生む可能性がある点が魅力です。
まとめ:現場からの活性化が組織を変える
社内アンバサダー制度は、世代や部署の壁を越えたコミュニケーションを促進し、組織に新しい風を吹き込むための有効な手段です。特定の誰かに任せるのではなく、多様な社員が「つなぎ役」として自律的に活動することで、形式的な施策では届きにくい現場のリアルな課題解決や、ポジティブな組織文化の醸成に貢献します。
もちろん、制度を導入するだけで全てが解決するわけではありません。明確な目的設定、アンバサダーへの適切なサポート、経営層の理解と協力、そして継続的な運用改善が不可欠です。
もし貴社が、世代間ギャップや部署間の壁に悩んでおられるなら、あるいはもっと現場発信の活気ある組織を目指したいとお考えでしたら、社内アンバサダー制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。本稿が、貴社のコミュニケーション課題解決に向けた一助となれば幸いです。