部署間の壁を越える!業務紹介ピッチイベント活用術
人事・組織開発を担当される皆様、日々の業務お疲れ様です。「新しいつながりLab」は、世代や背景を超えたコミュニケーションを通じて、組織の課題解決に役立つ実践的な情報を提供しています。
大企業の組織において、部署間の連携不足や相互理解の欠如は、多くの課題の根源となります。いわゆる「サイロ化」した組織では、情報共有が滞り、重複作業が発生し、新しいアイデアが生まれにくくなる傾向が見られます。特に、異なる専門性を持つ部署間や、長年培われた文化が異なる部署間では、互いの業務内容や役割が見えにくく、連携の難しさを感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このような課題を解決し、組織全体の活力を高めるための一つの有効なアプローチとして、「業務紹介ピッチイベント」が注目されています。本稿では、この業務紹介ピッチイベントが組織内のコミュニケーションにどのような可能性をもたらすのか、その企画・運営のポイント、そして効果測定や費用対効果について詳しく解説します。
業務紹介ピッチイベントとは?
業務紹介ピッチイベントとは、各部署やチームが、自身の業務内容、役割、現在取り組んでいること、他の部署との連携ポイントなどを、短時間で簡潔にプレゼンテーション(ピッチ)形式で紹介し合う社内イベントです。
その主な目的は、部署間の相互理解を深めることにあります。単に業務内容を説明するだけでなく、その部署が組織全体の中でどのような価値を生み出しているのか、どのような課題に取り組んでいるのかを共有することで、他の部署の社員が自身の業務との関連性や連携の可能性を見出しやすくなります。
従来の部署紹介資料やフォーマルな報告会と比較すると、ピッチ形式はよりカジュアルで参加しやすく、双方向のコミュニケーションを促しやすいのが特徴です。短時間で多くの部署を知ることができ、質疑応答やその後の懇親の場で、具体的な連携に向けた会話が生まれやすくなります。
企画・運営のポイント:成功に導くためのステップ
業務紹介ピッチイベントを成功させるためには、いくつかの重要な企画・運営ポイントがあります。
1. 目的の明確化と共有
まず、「なぜこのイベントを行うのか」という目的を明確にすることが最も重要です。部署間の相互理解促進、特定の課題解決に向けた連携強化、全社的な戦略の浸透、新しいアイデアの創出など、目的に応じてイベントの形式や内容が異なります。「部署間の壁をなくし、もっとスムーズに連携できるようにする」といった具体的な目標を設定し、関係者に共有することで、イベントへの協力や参加意欲を高めることができます。
2. ターゲットと参加形式の設定
誰にこのイベントに参加してほしいのか、ターゲットを設定します。全社員を対象とするのか、特定の部署間交流を目的とするのかで、規模や告知方法が変わります。
また、開催形式も検討します。 * オフライン: 会場を設けて対面で行います。熱気や一体感を生みやすく、イベント後のカジュアルな交流を促進しやすいのがメリットです。広い会議室や社内カフェなどを活用できます。 * オンライン: Web会議システムを利用します。場所の制約がなく、多拠点やリモートワークの社員も参加しやすいのがメリットです。ただし、カジュアルな交流を促すには工夫が必要です(ブレイクアウトルームの活用など)。 * ハイブリッド: オンラインとオフラインを組み合わせます。両方のメリットを享受できますが、運営の複雑さが増します。
3. 形式とルールの決定
ピッチの時間、資料の形式(スライド枚数上限など)、質疑応答の時間や形式などを具体的に定めます。例えば、「各部署5分間のピッチ+3分間の質疑応答」のように、短時間で多くの部署を紹介できるよう工夫します。全社員が理解できるよう、専門用語を避けて分かりやすく説明することをルール化することも有効です。
4. 登壇者の選定と準備支援
各部署から誰に登壇してもらうかを選定します。部署の代表者や、実際の業務内容をよく理解している担当者などが適任です。登壇経験がない社員もいるため、事前にピッチ作成のポイントやプレゼンテーションの練習機会を提供するなどのサポートを行うと、ピッチの質が高まります。
5. 効果的な告知と集客
イベントの目的、日時、場所(または接続方法)、登壇部署などを明確に告知します。社内報、グループウェア、社内SNSなど、複数のチャネルを活用して、ターゲットとなる社員に情報が届くように工夫します。なぜ参加すると良いのか、参加メリットを具体的に伝えることも重要です。
6. 当日の運営と雰囲気づくり
タイムキーパーを置き、円滑な進行を心がけます。ピッチの間に簡単な休憩や、参加者同士の交流を促す時間を設けるのも良いでしょう。オンライン開催の場合は、チャット機能を活用した質問受付や、投票機能などを使って参加者のエンゲージメントを高める工夫も有効です。イベント全体を通して、硬すぎない、気軽に質問や感想を言い合える雰囲気づくりを意識します。
7. フォローアップ
イベント終了後にアンケートを実施し、参加者の感想やイベントへのフィードバックを収集します。また、イベントをきっかけに生まれた連携のアイデアや、もっと詳しく話を聞きたいといったニーズを拾い上げ、後日の個別対話や少人数での情報交換の場を設けるなど、継続的な交流につながるフォローアップを行うと、イベントの効果を最大化できます。
効果測定と費用対効果
業務紹介ピッチイベントの効果を測定することは、施策の評価と改善、そして今後の投資判断において重要です。
測定指標の例:
- 参加者数/参加率: 事前告知に対する関心の高さや、イベントへの物理的・時間的参加しやすさを測ります。
- アンケート結果:
- イベントの満足度
- 部署間の業務内容への理解度の変化
- 自身の業務との関連性や連携の可能性をどれだけ見出せたか
- 今後、紹介された部署と連携してみたいと思ったか
- イベントをきっかけに、実際に他の部署の担当者と会話したか
- イベント後の変化:
- 部署間での情報共有の頻度や質に変化があったか
- イベントで紹介されたテーマに関する部署横断的な問い合わせや相談が増えたか
- イベントをきっかけに新しい部署横断プロジェクトや取り組みが生まれたか
- (可能であれば)これらの変化が、業務効率化や新しい価値創出にどの程度寄与したか(長期的な視点が必要)
費用対効果に関する示唆:
業務紹介ピッチイベントは、比較的低コストで実施可能な施策の一つです。 * 費用: 会場費(社内施設利用なら無料または低コスト)、配布資料印刷費、オンラインツールの利用料(既存ツール活用)、簡単な飲食物費(任意)、運営スタッフの人件費。 * 得られるリターン: 部署間の連携強化による業務効率の向上、情報共有の円滑化による意思決定の迅速化、新しい視点やアイデアから生まれるイノベーション、社員エンゲージメントや組織文化の向上。
特に、大企業においては、部署間の壁による非効率や機会損失が、目に見えない形で大きなコストとなっている場合があります。ピッチイベントによってこれらの課題が改善されれば、その効果は費用を大きく上回る可能性があります。まずは社内施設を活用し、手弁当での運営から始めるなど、小さく始めて効果を見ながら規模や内容を拡大していくアプローチも現実的です。
成功事例(架空)
ある大手製造業のA社では、製品開発部門と営業・マーケティング部門、そして研究開発部門の間での連携不足が課題となっていました。各部門はそれぞれの専門性を追求するあまり、互いの業務内容や課題、顧客ニーズへの理解が限定的で、新製品開発や販売戦略立案においてスムーズな連携が取れていませんでした。
この課題に対し、A社は「クロスファンクショナル理解促進ピッチ会」と題した業務紹介ピッチイベントを企画・実施しました。各部門から選出された代表者が、部門の役割、主要な業務、現在の注力テーマ、そして「他の部門に期待すること」を盛り込んだ10分間のピッチを行いました。質疑応答の後、部署をシャッフルした小グループでのカジュアルな対話の時間を設けました。
成果:
- イベント後のアンケートでは、参加者の9割が「他部門の業務内容への理解が深まった」と回答。
- 特に「他の部門に期待すること」というテーマ設定により、具体的な連携のアイデアや、日々の業務における困りごとが共有されやすくなりました。
- イベントをきっかけに、開発部門と営業部門の間で、顧客からのフィードバックを新製品に迅速に反映させるための定例ミーティングがスタートしました。
- 研究開発部門の新しい技術シーズに対し、営業・マーケティング部門から具体的な応用アイデアが出され、共同でPoC(概念実証)プロジェクトが立ち上がるきっかけとなりました。
このように、業務紹介ピッチイベントは、単なる情報共有に留まらず、具体的な連携や新しい取り組みを生み出す有効な「場」となり得ます。
結論
部署間の壁をなくし、組織全体の連携と活力を高める上で、業務紹介ピッチイベントは非常に有効な施策の一つです。互いの業務や課題を知ることは、相互理解を深め、共感を育み、結果としてよりスムーズな連携や新しいアイデアの創出につながります。
企画・運営においては、明確な目的設定、ターゲットに合わせた形式選び、そして参加者・登壇者双方がメリットを感じられるような工夫が重要です。そして、イベントを単発で終わらせず、その後のフォローアップを通じて継続的な交流や具体的なアクションに繋げていく視点も忘れてはなりません。
ご紹介した事例やポイントを参考に、ぜひ貴社に合った形で業務紹介ピッチイベントの導入を検討されてみてはいかがでしょうか。小さな一歩が、組織の大きな変化へとつながる可能性を秘めています。