上司部下の定期対話(1on1)活用術:世代・部署を超えた相互理解の場づくり
新しいつながりLabをご覧いただき、誠にありがとうございます。
大企業の人事・組織開発担当者として、日々の業務の中で「社内のコミュニケーション不足」「部署間の壁」「新しいアイデアが出にくい風土」といった課題に直面されている方も多いのではないでしょうか。特に、世代間の価値観や働き方の違いは、これらの課題をより複雑にしていると感じることも少なくないかと存じます。
様々なコミュニケーション施策やツール導入が検討される中で、実は既に社内に存在する「定期的な個別対話」が、これらの課題解決に繋がる強力な「場」となりうる可能性を秘めていることをご存知でしょうか。本記事では、上司と部下の間で行われる定期面談(1on1など)を、単なる業務報告や進捗確認、評価のための時間にとどめず、世代や部署を超えた相互理解とコミュニケーションを促進する「場づくり」として活用するための具体的なアプローチと、人事部門が推進すべきポイントについて解説します。
定期対話(1on1)が「場づくり」となりうる理由
多くの企業で導入されている定期的な上司と部下の対話は、その性質上、組織内の様々なコミュニケーション課題に対する有効なアプローチとなり得ます。
- 継続性: 定期的に実施されることで、単発のイベントや研修とは異なり、関係性や対話の質を継続的に深化させることが可能です。
- 個別性: 一対一の対話であるため、個々の社員の価値観、キャリアへの考え方、業務への悩み、組織に対する率直な意見などを深く引き出すことができます。これは、集団でのコミュニケーションでは難しい、パーソナルなレベルでの相互理解に繋がります。
- 双方向性: 上司だけでなく、部下側も主体的に自身の考えや感情を表現する機会となります。これにより、情報の一方的な伝達ではなく、文字通りの「対話」が生まれやすくなります。
これらの特性を活かすことで、定期対話は単なるマネジメントツールを超え、世代や部署といった組織内の区分を超えた、人間的なつながりと相互理解を生み出す「場」としての機能を発揮しうるのです。
「場づくり」としての定期対話の目的と効果
定期対話をコミュニケーションの「場」として捉え直すことで、以下のような目的達成と効果が期待できます。
- 世代・個人の価値観理解の深化: 若手社員とベテラン社員の間には、仕事に対する価値観、キャリア観、働き方への意識などに違いがあるのは自然なことです。定期対話でこれらの内面的な部分に触れる機会を設けることで、お互いの背景や考え方を理解し、「なぜそう考えるのか」の背景にある文脈を知ることができます。これにより、世代間ギャップから生じる誤解や摩擦を減らし、相互に尊重し合う土壌を育みます。
- 心理的安全性の向上: 安心して自分の意見や懸念を表現できる関係性が、定期対話を通じて構築されます。上司が傾聴し、否定せずに受け止める姿勢を示すことで、部下はよりオープンになり、建設的な対話が可能になります。これはチーム全体の心理的安全性の向上にも波及効果をもたらします。
- 部署間の連携課題・アイデアの吸い上げ: 部下個人の業務やキャリアの話だけでなく、所属部署や他部署との連携に関する課題意識、業務改善や新しい取り組みに関するアイデアなども、フランクに話せる雰囲気を作ることで引き出しやすくなります。現場レベルでの「困りごと」や「気づき」は、部署間の壁を越えるヒントになる宝庫です。
- 信頼関係の構築とエンゲージメント向上: 個人的な対話を通じて、上司と部下の間に強固な信頼関係が生まれます。単なる業務上の指示者と実行者という関係を超え、一人の人間として向き合うことで、部下のエンゲージメントやロイヤリティ向上に繋がります。
定期対話(1on1)を「場づくり」に変える具体的な活用術
では、具体的にどのような点に留意し、どのように対話を進めれば、定期対話を効果的な「場づくり」にできるのでしょうか。
- 一方的な報告会からの脱却:傾聴と問いかけの技術 最も重要なのは、上司が「話す」よりも「聞く」姿勢を徹底することです。部下が主体的に話せるように、オープンクエスチョン(「〜について、どう思いますか?」「何が一番印象に残っていますか?」など、Yes/Noで答えられない問い)を効果的に活用します。部下の言葉を繰り返し確認したり、共感を示す相槌を打ったりすることで、安心して話せる雰囲気を作ります。
- 「キャリア」という切り口での相互理解 単なる現在の業務の話だけでなく、「この仕事を始めて、どんなスキルが身についたと感じるか」「将来、どんなことに挑戦したいか」「今の業務で、どんな経験が将来に活かせそうか」といったキャリアに関する問いかけは、部下の内面や価値観に触れる良い機会となります。また、「上司自身が過去にどんなキャリアを歩んできたか」「仕事で大切にしている価値観」などを共有することで、お互いのキャリア観を比較・理解し、世代間の考え方の違いをポジティブに捉えることに繋がります。
- 組織・部署を越えた視点での対話 「今関わっているプロジェクトで、他部署との連携に難しさを感じることはあるか?」「もし〇〇部署の仕事ができるとしたら、どんなことに興味があるか?」「会社全体として、もっとこういう取り組みがあれば良いのに、と感じることはあるか?」など、部下自身の業務範囲を超えた視点での問いかけを行います。これにより、部署間の相互理解を促したり、新しいアイデアの種を見つけたりする機会になります。
- 「非公式」な要素を取り入れる 業務から少し離れた趣味や週末の過ごし方、最近読んだ本などのカジュアルな話題も適度に交えることで、対話の雰囲気が和らぎ、より人間的な繋がりを感じさせます。これが、心理的安全性の向上や本音で話しやすい関係性構築に繋がります。
- ポジティブなフィードバックとストレングスの探求 課題や改善点だけでなく、部下の強みや良い点、貢献を具体的にフィードバックします。「〇〇さんの△△な行動(事実)のおかげで、□□という良い結果(影響)があったよ」のように具体的に伝えます。また、「どんな時に仕事にやりがいを感じるか?」「どんな能力をもっと伸ばしたいか?」といった問いを通じて、部下自身が持つ強みやポテンシャルを探求する手助けをします。
人事部門が推進すべきポイント
定期対話を組織全体のコミュニケーション活性化に繋げるためには、人事部門の戦略的なサポートが不可欠です。
- 目的の明確化と全社への共有: 定期対話が単なる評価や進捗管理のためだけではなく、「相互理解を深め、より良い組織を作るための重要なコミュニケーション機会である」という目的を明確に定義し、経営層から現場社員まで広く周知徹底します。
- 管理職向け研修・スキルアップ支援: 効果的な傾聴、コーチング、適切な問いかけ、フィードバックのスキルは一朝一夕に身につくものではありません。管理職向けにこれらのスキルを習得するための実践的な研修機会を提供します。ロールプレイングを取り入れるなど、座学だけでなく体感できる内容が効果的です。
- 対話テーマ例やガイドラインの提供: 何を話せば良いか分からない、話が業務報告だけで終わってしまう、といった管理職のために、多様な対話テーマ例や目的別の問いかけリスト、対話の進め方に関する簡易ガイドラインなどを提供します。これにより、管理職が自信を持って対話に臨めるようにサポートします。
- 運用状況の把握と改善: 定期対話の実施率だけでなく、組織サーベイなどを通じて「上司との対話を通じて、自身の意見を聞いてもらえていると感じるか」「上司は自分のキャリアに関心を持ってくれていると感じるか」といった定性的な効果も継続的に測定します。その結果をもとに、研修内容やガイドラインを改善していきます。
- 費用対効果の示唆: 定期対話の推進にかかるコストは、主に管理職や社員の時間、そして研修費用などが中心となります。これは、大規模なシステム導入やイベント開催に比べれば比較的抑えられる場合が多いです。その効果として、離職率の低下、エンゲージメント向上による生産性向上、現場からの改善提案増加、採用力向上などが期待できます。これらの費用と効果を定量・定性両面から分析し、経営層への説明責任を果たすことも重要です。直接的なROI算出は難しい場合でも、「対話への投資が組織の無形資産(人間関係、知識共有、エンゲージメント)を増やし、長期的な競争力に繋がる」といった視点で価値を伝えます。
まとめ
上司と部下の定期的な対話(1on1)は、日々の業務の中で最も頻繁かつ個別に行われるコミュニケーション機会です。これを単なる管理ツールとしてではなく、「世代や背景を超えた相互理解を深め、組織のコミュニケーションを活性化させるための重要な場」として捉え直し、適切に活用することで、長年抱える組織課題の解決に繋がる大きな可能性を秘めています。
人事・組織開発担当者の皆様には、ぜひこの「既に存在する場」のポテンシャルに着目していただきたく存じます。管理職への適切な支援、対話の目的と重要性の周知、そして継続的な運用改善を通じて、定期対話を貴社の組織文化を変える一歩として活用されてみてはいかがでしょうか。本記事が、貴社のコミュニケーション活性化に向けた新たな取り組みのヒントとなれば幸いです。